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月夜の海、朔の森

まきの木

田舎の 一軒家

東に 見渡すかぎりの 田園が広がり
西の山には 竹林が 覆いかぶさるように連なっていて
北側は 空き地で
南に ミカン畑があった

そのミカン畑と 家との境目に
数本の まきの木が 立っていて
そのうちの一本が 家の二階の南の窓から よく見えた

外灯もない 田舎の道は
夜には 月明かりだけが たよりで
月の出ない夜ともなると 星の瞬きに 虫の音が よく映えた

毎月、十五夜の前後は 南の窓に まっすぐ 月影が射し
六畳の部屋が 幻想的とも言うべき 空間になったものだ

さて、その家の住人は 何人いたのか知らないが
南の窓から 手を差し伸べていたのは 明らかに 一人の女だけ
もう少しで手が届きそうなほどにまで 伸びたまきの木の枝に
毎日のように 話しかけては 腕を伸ばして 木に触れようとしていたのだ
まきの木も それに応え、しっかりと 枝を 窓に向けて 精一杯伸ばしていった

下から見上げると
まったく 不自然なほど、そのまきの木だけは
北側に 北側に 枝を伸ばし
東にも南にも、ましてや西にも 枝を伸ばしてはいなかった

今は 誰も住まなくなった 田舎の一軒家
南の窓は 閉ざされているが
まきの木は 彼女との会話を 今もずっと 幹の内部に記憶し続けている
とは言うものの、まきの木は 
彼女の言葉ではなく
言葉にならなかった方の
言葉の背後に隠れてしまった方の
言葉からこぼれてしまった方の
彼女の「言いたかったこと」を
記憶に とどめているのだ
引っ越してしまった 彼女の 代わりに


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